斎王の悲しみと黒木の鳥居 ー 野宮神社(嵯峨野)

黒木の鳥居と斎王の——祈り嵯峨野に残る、静かな別れの記憶
嵯峨野の竹林を抜けた先に、時を超えた祈りの場所がある。 朱ではなく、黒木の鳥居が語るのは、別れではなく始まりの物語。
野宮神社——その名に宿るのは、伊勢へ向かう皇女「斎王」が身を黒くした神聖な記憶。 木鳥居は、樹皮を残したままのクヌギで作られ、日本最古の形を今に伝える。削減された美ではなく、残された美。その佇まいは、静けさの中に芯の強さを秘めている。
境内には苔庭が広がり、白砂と丸太橋が嵐の山風景を象徴するように配置されている。 小柴垣には黒文字(クロモジ)が使われ、和菓子の楊枝にもそのなる素材が、空間に繊細な香りを添える。
源氏物語「賢木の巻」では、光源氏と六条御息所が別れを告げる舞台として描かれたこの地。
WABISUKEが目指すもの、「そんな削減しない美」の継承はできないかもしれない。 形にすることで我慢ではなく、形にならないものをそっと残すこと。 野宮神社の黒木鳥居は、私たちに問いかける——「あなたが守りたいものは、何ですか」と。
静けさの中にこそ、真の美が宿る。 そしてその
美は、誰かの記憶となり、未来へと受け継がれていく。