灯籠の声を聴く  静けさに宿る光のかたち


灯籠の声を聴く ― 静けさに宿る光のかたち

夜の森に、ひとつだけ灯る石の灯籠。
風も音も吸い込まれたような静寂の中で、
その淡い光は、まるで時を超えて語りかけてくるようです。

灯籠(とうろう)は、ただの照明器具ではありません。
それは、祈りのかたちであり、風景の記憶であり、
侘び寂びの美意識が結晶した、日本文化の静かな語り部です。

灯籠のはじまり ― 火と祈りの交差点

灯籠の起源は奈良時代に遡ります。
仏教とともに伝来し、寺院の境内に置かれた石灯籠は、
仏の智慧の光を象徴するものとして、
参拝者の足元を照らしながら、心の闇にもそっと寄り添ってきました。

やがて、灯籠は神社や庭園にも広がり、
春日灯籠、雪見灯籠、織部灯籠など、
その形や配置には、祈りと美の思想が織り込まれていきます。

 光と影の美学 ― 「陰翳礼讃」の世界

谷崎潤一郎が語った「陰翳礼讃」の世界において、
灯籠はまさに、光と影の対話を体現する存在です。
強い光ではなく、ほのかな灯り。
輪郭を曖昧にし、空間に余白を生むその光は、
見る者の心に静かな揺らぎをもたらします。

灯籠の火袋(ひぶくろ)に彫られた月や花の文様は、
ただの装飾ではなく、季節や祈りを映す小さな宇宙。
その一つひとつに、職人の手と心が宿っています。