年の瀬の手仕事 第二話 包むという、気配り


年の瀬の手仕事 第二話

包むという、気配り

年の瀬になると、贈り物を包む機会が増えます。
お世話になった方へのお礼、遠く離れた家族への便り、
そして、自分自身への小さなご褒美。

けれど、包むという行為は、
ただ物を覆うことではありません。
それは、気持ちをかたちにする手仕事。
言葉にならない想いを、そっと手のひらに乗せるような、
静かな気配りの時間です。

 

包む、という文化

日本には、古くから「包む文化」が根づいています。
風呂敷、和紙、水引、布、竹皮。
素材の選び方、折り方、結び方にまで意味が宿る。

たとえば、風呂敷は広げれば一枚の布。
けれど、包むことで「贈る」という行為が生まれます。
そして、ほどけば「受け取る」という余白が現れる。

包むことは、境界をつくることではなく、
つながりを生むための所作なのです。

 

素材に宿る、季節の気配

師走の贈り物には、冬の気配を感じる素材がよく似合います。
柚子色の和紙、煤竹色の紐、雪の下のような白い布。
それらは、季節の静けさを包み込み、
贈る相手の心に、そっと冬の風景を届けてくれます。

素材を選ぶとき、私たちは無意識に、
相手の暮らしや好み、そしてその人の時間に思いを馳せています。
それは、包む前から始まっている「気配りの手仕事」。

 

包む前の静けさ

贈り物を前にして、手を止める瞬間があります。
「この人は、どんなふうに受け取るだろう」
「この包みを開けるとき、どんな表情をするだろう」

その想像の時間こそが、包むという行為の本質。
紙を折る音、紐を結ぶ手の動き、
そのすべてが、相手との静かな対話になっていきます。

包む前の静けさには、
言葉よりも深い、気持ちの余白が広がっています。

 

水引に込める祈り

水引は、ただの飾りではありません。
その結び方には、願いや祈りが込められています。

「梅結び」は、固くほどけにくい結び方。
長寿や安定を願うときに使われます。
「あわじ結び」は、両端を引くとさらに強く結ばれる。
人と人との絆を深めたいときに選ばれる結び方です。

結ぶという行為は、
関係を結び直すことでもあり、
新しい時間を迎えるための準備でもあります。

 

包むことで、言葉になる

贈り物に添える言葉が見つからないとき、
包み方が、その代わりになってくれることがあります。

丁寧に折られた紙、
まっすぐに結ばれた紐、
手書きの小さなタグ。

それらは、言葉にならなかった気持ちを、
そっと伝えてくれる静かなメッセージ。

包むことで、私たちは「ありがとう」や「元気でいてね」を、
かたちにして届けているのです。

 

今日のひと手間

師走のある一日、
誰かに贈るものがあるなら、
ぜひ「包む時間」を楽しんでみてください。

素材を選び、折り方を考え、
結び目に願いを込める。

それは、贈る相手だけでなく、
自分自身の心を整える時間にもなります。

そして、もし贈るものがなくても、
自分の大切なものを包み直してみるのも素敵です。

たとえば、古い手紙を和紙で包む。
たとえば、お気に入りの器を布でくるむ。
たとえば、思い出の写真を封筒に入れる。

包むことで、記憶は静かに整えられ、
新しい年への扉が、そっと開いていきます。