畳は、静けさを編む床  い草の香りと時間の詩

 

「畳は、静けさを編む床 ― い草の香りと時間の詩」

 

畳の上に座ると、時間が少しだけゆっくり流れる気がします。
足の裏に伝わるやわらかな感触、鼻先に届くい草の香り。
それは、空間が呼吸しているような、静かな対話の始まりです。

畳の歴史は、なんと1300年以上前の飛鳥時代にまで遡ります 。
当時は、織物を床に敷いた簡素な形で、貴族が座具や寝具として使っていました。
「畳」という言葉が文献に登場するのは奈良時代の『古事記』で、「菅畳八重」「皮畳八重」などの記述が見られます 。

平安時代になると、畳は貴族文化の象徴へと進化。
板敷の床に置く「置き畳」として、身分によって厚さや縁の柄が異なるなど、格式を表す道具でもありました。
鎌倉〜室町時代には、書院造の登場により、部屋全体に畳を敷き詰めるスタイルが生まれ、現代の和室の原型が形づくられます 。

桃山時代には茶道の発展とともに、畳は「精神性を宿す床」として再解釈されました。
そして江戸時代中期以降、ようやく庶民の家にも畳が普及し始めます。
畳師・畳屋と呼ばれる職人たちが活躍し、畳干しする家々の光景が町の風物詩となりました 。

明治〜昭和にかけては、6畳・8畳の和室が一般化し、畳は日本の暮らしの中心に。
い草の香りは、どこか懐かしく、心を静かに整えてくれる存在となったのです。


畳は、ただの床材ではありません。
それは、日本の暮らしに根ざした「静けさの器」。
い草を編み込んだ畳表、藁やウレタンで構成された畳床、そして布で縁取られた畳縁。
そのすべてが、空間にやさしさと余白をもたらします。

畳の上で寝転ぶと、音が吸い込まれていくような感覚があります。
足音も、話し声も、やさしく包まれていく。
それは、畳が「静けさの守り人」である証かもしれません。

最近では、グレーやベージュの畳、縁なしの琉球畳など、モダンなデザインも増えています。
畳は、伝統と現代をつなぐ橋でもあるのです。

そして何より、畳は「問いを受け止める場所」。
茶道の一服、読書のひととき、猫の昼寝。
そのすべてが、畳の上で静かに息づいています。


最後に:

畳の上に座って、目を閉じてみてください。
そこには、音のない会話と、香りのある記憶が広がっています。
WABISUKEの読者にとって、畳は「静けさを編む床」。
暮らしの中に、そっと問いを差し込む場所なのです。


【参考】

• 全国畳産業振興会|畳の歴史 
• 前田畳店|畳の発祥と文化背景