禁色と庶民の逆転美学


禁色と庶民の逆転美学

WABISUKE編集部|色彩と秩序を巡る連載 第2章

「定められた色ほど、美しく見えるのはなぜだろう」
江戸の町人たちは、憲法の規制を逆手に取り、色彩の遊び心を磨き上げた。

禁止色とは何か──色に宿る忘れの記号

禁止色とは、特定の当然以外の者が使用を禁じられた色のこと。 平安時代には紫、江戸時代には金・紅・濃紫などが該当。

• 紫:天皇や高位の公家のみが許された色。精神性と容認の象徴。
• 金・紅:豪華さを象徴する色として、庶民の使用が制限される


 江戸庶民の逆転美学──「粋」は抑制の中に宿る

規制があるからこそ、庶民は色彩に工夫を凝らした。 禁色を「見せない美学」から昇華させたのが、江戸の粋(いき)である。

• 裏勝り(うらまさり):表はネズミ色、裏地に紅や金を忍ばせる。見えない部分にこそ美を宿す。
• 四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねず):地味な茶系・ネズミ系の色名が生まれ、地味の中に個性を競う


 禁止色は「断られた美」ではなく「許される美」

庶民は禁色を避けながらも、憧れと観察の視点を続けた

• 歌舞伎役者の衣装束:庶民のスターが禁色を大胆に使い、逆転の象徴となる。
• 浮世絵の色彩:版元や師が禁色を巧みに使い、庶民の憧れを視覚化。
• 布と言葉の遊び:色名に別称をつけることで、禁止色を「言葉の裏」で楽しむ文化も。


 侘助の布に宿る逆転の詩

それは、
庶民が「見えない美」「隠された誇り」を紡ぎ出すための、創造の余白だった。

WABISUKEでは、逆転美学を現代の布や言葉に織り込み、時間を超えた感性の継承を目指しています。
次回は「色名詩学──ネズミ色に百の物語を込めて」をテーマに、色彩と言葉の関係を探ります。

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