いのちを愛づる科学者 中村桂子さんの生命誌

いのちを愛づる科学者──中村桂子さんの生命誌
秋の露寒(つゆさむ)に、ふと「生きるとは何か」と思いを馳せることがあります。
そんな問いに、やさしく、深く、そして詩のように答えてくれる科学者がいます。
それが、中村桂子さん──生命誌研究者として、科学と人間のあいだに橋をかけ続けてきた方です。
科学を「文化」として語る
中村さんは、東京大学で生物化学を学び、DNA研究の最前線に立ちながらも、
「科学は人間の営みの一部であり、文化である」と語ります。
「人間は生きものである。生きものは時間を紡ぐ存在である。」
この言葉に込められたのは、効率や成果を追い求める現代への問いかけ。
季節が巡るように、いのちもまた、ゆっくりと、確かに、時間を紡いでいるのです。
生命誌という物語
中村さんが提唱する「生命誌」は、生命科学の知識をもとに、
生物の歴史や人間の営みを物語として捉える学問です。
それは、たとえば「紅樫(べにかば)」という色名に宿る、
秋の深まりと木々の記憶を読み解くような行為にも似ています。
科学の言葉と詩の言葉が、ここではひとつに溶け合うのです。
子どもたちへの語りかけ
中村さんは、「12歳の生命誌」「17歳の生命誌」などの著作を通じて、
若い世代に向けて「生きることの意味」を語り続けています。
その語り口は、やさしく、あたたかく、そして問いかけに満ちています。
WABISUKEが目指す「伝統と遊び心の橋渡し」とも、深く響き合うものです。
自然とともに生きる
中村さんは、原発問題や気候変動にも言及しながら、
「人間は自然の一部である」という視点を貫いています。
それは、季語に込められた自然との対話──
たとえば「露寒」に感じる、空気の冷たさと命のぬくもり──と通じるもの。
編集後記
中村桂子さんの言葉は、科学の枠を超えて、
詩人のように、哲学者のように、そして母のように私たちに語りかけてきます。
WABISUKEが紡ぐ季語と色名の世界に、
中村さんの生命誌という視点を添えることで、
読者の「いのちの時間」が、少しだけ豊かになるかもしれません。