紫式部と、静けさの継承


 

紫式部と、静けさの継承|WABISUKEのことば

千年の時を越えて、紫式部は今もなお、私たちの心の奥に語りかけてきます。彼女が見つめた月、聞いた鐘の音、書き記した恋の余韻。それらは、現代の私たちにも響く「静けさの言葉」として残っています。

紫式部は、平安時代の宮廷文化の中で、女性として、書き手として、母として、そして一人の人間として、深い感受性と知性をもって生き抜いた人でした。彼女が遺した『源氏物語』は、単なる恋愛小説ではなく、人の心の奥底にある「もののあはれ」を描いた文学の極みです。

WABISUKEは、そんな紫式部のまなざしを、現代の暮らしにそっと重ねてみたいと願っています。彼女の言葉に宿る静けさ、余白、そして情緒。それらは、私たちが紡ぐ言葉や空間の設計、そして日々の営みにおいても、静かに指針となってくれるのです。

宇治の月と、源氏の夢

紫式部が『源氏物語』の終盤に選んだ舞台、宇治。そこには、物語の主人公・光源氏の死後、彼の息子たちが織りなす新たな物語が展開されます。宇治は、都の喧騒から離れた静謐な地。川のせせらぎ、山の緑、そして夜空に浮かぶ月。紫式部はこの場所に、人生の儚さと再生の希望を託しました。

「この世の夢に心惑はで、誦経の鐘の風につけて聞こえ来るを、つくづくと聞き臥したまふ。」

『源氏物語』の浮舟の巻に登場するこの一節は、現実と夢の境界に揺れる人の心を、静かに、しかし深く描いています。紫式部は、恋や別れ、死や再生といった普遍的なテーマを、自然の風景と重ねながら、言葉にしていきました。

宇治の月は、彼女にとって「見えないものを見るための光」だったのかもしれません。私たちもまた、日々の暮らしの中で、ふとした瞬間にその光を感じることがあります。WABISUKEでは、そんな感覚を大切にしながら、言葉や構成、色や空気感を整えています。

沈黙の語りと、色の記憶

紫式部が好んだとされる「藤色」は、恋の余韻、別れの予感、そして再会への祈りを含んだ色。藤の花が風に揺れる姿は、まるで人の心の揺らぎを映しているかのようです。

WABISUKEでは、このような色に込められた感情や記憶を、言葉や構成、あるいは空間の余白として表現することを大切にしています。たとえば、記事の背景に選ぶ色、写真のトーン、余白の取り方、語尾のやわらかさ。そうした細部に、紫式部のような「沈黙の語り」が宿ることを願っています。

ものを語りすぎず、しかし確かに伝える。その姿勢は、紫式部の文章に学ぶべき美意識のひとつです。

若いあなたへ

紫式部は、決して遠い存在ではありません。彼女もまた、恋に悩み、未来に迷い、言葉に救われた一人の女性でした。宮廷という閉ざされた世界の中で、自分の感性を信じ、筆をとり続けたその姿は、現代を生きる私たちに多くの示唆を与えてくれます。

源氏物語のように、あなたの人生にも「光る君」が現れるかもしれません。そのとき、紫式部の言葉がそっと背中を押してくれるはずです。

たとえば、誰にも言えない気持ちを抱えた夜。ふとページをめくると、そこに自分の心を代弁するような言葉がある。そんな経験をしたことはありませんか? 紫式部の文章には、時代を越えて人の心に寄り添う力があります。

WABISUKEの言葉もまた、そんな力を持てたらと願っています。かわいく、やさしく、そして深く。若い人にも届くように、でも決して軽くならないように。紫式部のように、余白の中に感情を宿す表現を目指しています。

静けさの中にある豊かさ

紫式部が遺したものは、華やかな物語だけではありません。彼女の文章には、静けさの中にある豊かさ、沈黙の中にある語りが宿っています。

現代は、情報が溢れ、言葉が消費される時代です。そんな中で、紫式部のような「静けさの語り」は、私たちにとって大切な指針となります。

WABISUKEは、紫式部の感性に学びながら、現代の暮らしに寄り添う表現を探し続けています。布や色に限らず、言葉、構成、空間、そして時間の流れまでも含めて、千年前のまなざしと響き合うような営みを目指しています。

あなたの暮らしの中に、紫式部の静けさがそっと息づくことを願って。


 

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