装束と色彩の階層性  平安時代から江戸へ、身にまとう秩序と詩情

 

装束と色彩の階層性 ─ 平安から江戸へ、身にまとう秩序と詩情

WABISUKE編集部|季節と記憶を紡ぐ連載より

「色は匂へど散りぬるを」──
桜の儚さに重ねられた色彩の美学は、平安の宮廷装束から江戸の町人文化へと、時代を超えて変容しながらも、階層と感性の境界を描き続けてきました。

平安時代:色は身分の言語であり、季節の詩であった

十二単に代表される平安貴族の装束は、色の重ねによって季節感と身分を語る「襲の色目(かさねのいろめ)」が命でした。

• 色彩の階層性:紫は最高位の象徴。青や緑は中位、黄や赤は下位とされ、禁色(きんじき)として庶民の使用が制限される色も存在。
• 季節との連動:「梅重(うめがさね)」「桜襲(さくらがさね)」など、自然の移ろいを装束に映すことで、感性と教養を示す。
• 詩的記号としての色:色は単なる装飾ではなく、和歌や物語と連動する文化的記号。『源氏物語』では、色が人物の性格や運命を暗示する。


鎌倉〜室町:武家の台頭と実用性への転換

武士の時代には、装束は簡素化され、色彩も抑制されていきます。

• 実用性重視:直垂(ひたたれ)や小袖が主流となり、動きやすさが優先される。
• 色の象徴性の変化:黒や紺が武士の威厳を示す色に。赤は戦場での勇気の象徴として用いられることも。
• 階層性の再編:公家と武家で色の意味が分岐し、同じ色でも文脈によって異なる階層性を持つようになる。


 江戸時代:町人文化の台頭と色彩の解放

江戸期には、庶民の間でも装束と色彩が自由に楽しめるようになり、階層性はより複雑かつ遊び心に満ちたものへ。

• 粋と洒落の美学:「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねず)」に代表される微細な色名が生まれ、町人の美意識が洗練される。
• 色の隠喩性:派手な色は禁止される中、裏地や小物に鮮やかな色を忍ばせる「裏勝り(うらまさり)」の文化が発展。
• 階層の逆転:歌舞伎役者や浮世絵師など、庶民のスターが色彩のトレンドを牽引し、上層階級の装束に影響を与える現象も。


 色彩の記憶をまとうということ

装束に宿る色は、単なる美ではなく、時代の秩序・感性・遊び心を映す鏡でした。
平安の紫、江戸の鼠色──それぞれが語るのは、身分だけでなく、季節を感じる心、そして美を遊ぶ知性。

WABISUKEでは、こうした色彩の記憶を、現代の布や言葉に織り込むことで、時代を超えた感性の継承を目指しています。
次回は「禁色と庶民の逆転美学」について、より深く掘り下げていきます。


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