年の瀬の手仕事 第四話  書くという、手仕事

年の瀬の手仕事 第四話

書くという、手仕事

年の瀬が近づくと、ふと「書く」という行為が恋しくなります。
手紙、年賀状、日記、贈り物に添えるひとこと。
一年の終わりに、言葉を手で綴るということ。

それは、誰かのためであると同時に、
自分自身の心を整えるための、静かな手仕事です。

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書く前の、沈黙の時間

便箋を取り出し、筆を手に取る。
けれど、すぐには書き始めない。
しばらく、白い紙を見つめながら、
その人の顔や声、交わした言葉を思い出す。

その沈黙の時間こそが、書くという行為のはじまり。

言葉は、心の奥からゆっくりと浮かび上がってくるもの。
急がず、焦らず、ただ静かに待つ。
それが「書く」という手仕事の、最初の所作です。

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筆跡に宿る、温度と時間

手書きの文字には、その人の「体温」が宿ります。
少し傾いた文字、かすれたインク、
行間の余白ににじむ、言葉にならない気持ち。

たとえば、祖母から届いた年賀状の筆文字。
たとえば、友人がくれた手紙の丸い文字。
たとえ短い一文でも、そこには確かに、その人の時間が流れています。

デジタルの文字が「情報」だとすれば、
手書きの文字は「記憶」なのかもしれません。

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年賀状という、季節の手紙

年賀状は、日本独自の「季節の手紙」。
新年の挨拶とともに、「今年もよろしく」という願いを届ける風習です。

近年では、メールやSNSで済ませる人も増えました。
けれど、年賀状を受け取ったときの、あの嬉しさ。
ポストを開けた瞬間に広がる、紙の手触りとインクの香り。
それは、デジタルでは得られない、「触れることのできる言葉」なのです。

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書くことで、心が整う

誰かに手紙を書くとき、私たちは自然と、自分の心を見つめ直します。

「今年はどんな一年だっただろう」
「この人に、何を伝えたいだろう」
「どんな言葉が、いま必要だろう」

書くという行為は、自分の内側を静かに掘り下げる時間でもあります。

そして、書き終えたとき、少しだけ心が軽くなっていることに気づくのです。

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書くことで、未来をひらく

手紙は、過去を振り返るだけでなく、未来への扉を開くための鍵にもなります。

「また会いましょう」
「来年も、元気で」
「いつか一緒に、あの場所へ行きましょう」

言葉にすることで、まだ見ぬ時間が、すこしずつ輪郭を帯びてくる。

書くことは、未来を信じること。
そして、その未来を誰かと分かち合いたいと願うこと。

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今日のひと手間

年の瀬のある一日、便箋とペンを用意して、誰かに手紙を書いてみませんか。

長い文章でなくてもかまいません。
「ありがとう」
「お元気ですか」
「また会いたいですね」

その一言が、誰かの心をあたため、
あなた自身の心にも、静かな光を灯してくれるはずです。

そして、もし誰にも書く相手が思い浮かばなければ、
自分自身に宛てて書いてみるのも素敵です。

「今年のわたしへ」
「よくがんばったね」
「来年も、ゆっくりでいいよ」

書くことで、心の奥にある声が、
そっと言葉になって現れてくるかもしれません。