『暮らしに染まる美 芹沢銈介と型絵染の詩』

「暮らしに染まる美──芹沢銈介と型絵染の詩」
日々の暮らしに、静かに寄り添う色と文様。
芹沢銈介(せりざわ けいすけ)は、その美を布に染め、風に揺れる暖簾や、壁に掛けられた布に命を吹き込みました。
彼の作品は、民藝の精神を体現しながら、どこか遊び心と詩情をたたえています。
■ 型絵染という技法──すべてを自らの手で
芹沢は、型紙を彫り、染料を調合し、布に染めるまでの工程をすべて自らの手で行いました。
それは、分業が常識だった染色の世界において、極めて異例のことでした。
彼は「型絵染」という独自の技法を確立し、1956年には重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。
その作品は、明快な色彩と文様が特徴です。
野菜、魚、文字、幾何学──日常のモチーフが、芹沢の手によって詩的に再構成されます。
■ 柳宗悦との出会い──民藝への目覚め
1927年、柳宗悦の論文『工藝の道』に感銘を受けた芹沢は、民藝運動に参加しました。
沖縄の紅型(びんがた)に触れたことで、染色の道を本格的に歩み始めます。
柳の「用の美」という思想は、芹沢の創作に深く根を張りました。
彼は柳の依頼で雑誌『工藝』の装幀も手がけ、民藝の思想を視覚的に伝える役割も担いました。
■ 暮らしと美術──芹沢の仕事
芹沢の作品は、着物、帯、のれん、屏風、カレンダー、絵本の装丁など多岐にわたります。
戦後の布不足の時代には、和紙に型染を施したカレンダーを制作し、暮らしに彩りを添えました。
彼の美意識は、単なる装飾ではなく「生活の中にある美」を追求するものでした。
その審美眼は、世界各地の民藝品の収集にも向けられ、静岡市立芹沢銈介美術館にはその成果が今も息づいています。
■ 芹沢銈介の色と文様──暮らしの詩
芹沢の作品には、どこか懐かしく、そして新しい風が吹いています。
それは、暮らしの中にある美を見つけ、染め上げた詩のような布。
彼はこう語っています。
「美は、使われることで生きる。」
その言葉通り、芹沢の型絵染は、今も誰かの暮らしの中で、静かに息づいています。