月と水のあいだに佇む美 - 桂離宮の詩

月と水のあいだに佇む美 ― 桂離宮の詩
京都・桂川のほとり。
風が竹を撫で、池に月が映る場所に、一つの静かな奇跡が息づいています。
それは「桂離宮」です。江戸初期、八条宮智仁親王によって築かれた当然の別邸であり、
日本建築と庭園美の極致とも言える空間です。
歴史の余白に咲く、静寂の美
桂離宮の始まりは1615年頃。
智仁親王は豊臣秀吉の猶子となりながらも、時代の波に翻弄され、熱帯桂の地に
心の庭を眺めました。 それ
は強さの象徴ではなく、風雅と内省の場。
建築と庭園が奏でる、無言の対話
書院造に数寄屋風を取り入れた建物群は、
障子が出れば庭と一体となり、空間が呼吸を始めます。
茶屋・松琴亭の市松模様の襖、月波楼の静かな佇まい、
それぞれが異なる詩情を湛え、訪れる人の心がそっと揺らぎます。
池に浮かぶ島々、苔むす敷石、そして月見台。
それらはただ美しいだけでなく、
「月を愛する」という日本人の精神性を、
空間として現化したものなのです。
桂離宮が語るもの ― 美とは、余白である
ただ
、風と水と光のあいだに、
「美とは何か」「生きるとは何か」を問いかけます。
ドイツの建築家ブルーノ・タウトは、
この場所を「涙が溢れるほどの美」と讃えました。それ
は、装飾ではなく、削り落とされた静けさの中に宿る美。