光を包む紙の窓  障子が語る静けさの美学


「光を包む紙の窓 ― 障子が語る静けさの美学」

障子は、ただの建具ではありません。
それは、光をやさしく包み、風を通し、季節の気配をそっと伝える「紙の窓」。
日本の家に差し込む朝の光が、障子越しにふわりと広がる瞬間。
それは、まるで空気が詩を読んでいるような静けさです。

障子のはじまりは、平安時代。
貴族の邸宅「寝殿造り」で、空間を仕切るために使われた「明かり障子」がその原型とされています 。
当時の人々は、寒風を防ぎながらも、やわらかな光を室内に取り込む工夫として、和紙を張った格子を考案しました。
この「明かり障子」は、まさに自然と共に暮らす知恵の結晶だったのです。

時代が進むにつれ、障子は進化します。
鎌倉時代には引き戸としての機能が加わり、江戸時代には「組子」と呼ばれる美しい格子模様が登場。
そして、庶民の暮らしにも広がっていきました 。

障子の魅力は、機能だけではありません。
和紙越しに映る影、風に揺れる紙の音、そして季節ごとの張り替えという儀式。
それらすべてが、暮らしの中に「間(ま)」と「余白」を生み出します。

たとえば「雪見障子」。
下部にガラスが入っていて、冬の庭を室内から眺めるために作られたもの。
まるで、雪の精霊と目を合わせるための窓のようです B。

あるいは「猫間障子」。
猫が自由に出入りできるように工夫された小さな窓付きの障子。
なんとも愛らしく、暮らしの中の遊び心を感じさせます 。

障子は、光と影の間に立つ存在。
外の世界を完全に遮るのではなく、やわらかく透かすことで、自然との距離を縮めてくれる。
それはまるで、「見えないものを感じる」日本人の美意識そのものです。