色名の詩学  鼠色に百の、物語を込めて


色名の詩学──鼠色に百の物語を込めて

WABISUKE編集部|色彩と記憶をめぐる連載 第3章

「地味こそ、粋の極み」──
江戸の町人たちは、禁色の規制を超えて、鼠色という“地味”の中に、百の詩情を織り込んだ。
それは、色彩を言葉で遊ぶ文化であり、日常に潜む美を見つける眼差しだった。

 四十八茶百鼠──色名が詩になる瞬間

江戸時代、庶民の装束に許された色は限られていた。
しかしその制限の中で、茶系・鼠系の色に微細なニュアンスを与え、名前をつけることで、色彩の世界は無限に広がった。

• 四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねず):実際には48や100を超える数の色名が存在。数値は“多さ”の象徴。
• 色名の詩性:例えば「鳩羽鼠(はとばねず)」は鳩の羽根のような青みがかった灰色。「藍鼠(あいねず)」は藍染の気配を残す深い鼠色。
• 言葉による階層性:色そのものより、名付けのセンスが粋とされ、町人の教養や美意識を示す手段となった。


 色名は記憶の器──日常と自然の交差点

色名には、風景・季節・感情が込められている。
それは、庶民が日々の暮らしの中で見つけた美を、言葉にして残す文化だった。

• 自然との連動:「霞鼠(かすみねず)」「露草鼠(つゆくさねず)」など、季節の移ろいを映す色名。
• 感情の投影:「憂鼠(うれいねず)」「夢鼠(ゆめねず)」など、色に心情を重ねる詩的表現。
• 職人の記憶:染め職人や絵師が、色のニュアンスを言葉で伝えることで、技術と感性が継承された。


WABISUKEの布に宿る色名の詩学

鼠色とは、ただの灰色ではない。
それは、百の風景と百の心を映す、詩的な記憶の器である。

WABISUKEでは、こうした色名の詩学を、布や言葉に織り込み、現代の暮らしに静かな美を届けたいと願っています。
次回は「色彩と香り──装束に漂う記憶の層」をテーマに、五感で感じる色の世界を探ります。