花と心の記録帖  華道が教えてくれたこと

 

花と心の記録帖 〜華道が教えてくれたこと〜

朝の光が障子を透けて、部屋の隅に置かれた一輪挿しを照らす。
そこに咲くのは、庭で摘んだばかりの山吹(やまぶき)。
ふとした瞬間に、花が語りかけてくるような気がした。

花を生けるということ

華道を始めたのは、春の終わり。
「花を生けるのは、心を整えること」と先生が言った。
最初は、ただ花を花器に差すだけのことだと思っていた。
けれど、花の向き、枝の曲がり、葉の重なり――
その一つひとつに意味があると知ったとき、
私は初めて「見る」ではなく「聴く」ようになった。

記録するということ

毎回の稽古のあと、私はノートに花の名前と感想を記す。
「今日の桔梗は、少しうつむいていた。まるで、何かを思い出しているようだった」
「赤い椿は、まっすぐで、少し照れ屋な子どもみたい」
そんなふうに、花の姿に自分の気持ちを重ねていく。

写真も撮る。
でも、写真だけでは伝わらない。
だから、言葉も添える。
そのときの空気、香り、心の揺れ――
それらを記録することで、花はただの植物ではなく、
私の心の一部になる。

季節とともに、心も移ろう

春には、希望を。
夏には、情熱を。
秋には、静けさを。
冬には、耐える力を。

花を通して、私は季節と対話している。
そして、過去の記録を読み返すたびに、
「あのときの私は、こんな気持ちだったんだ」と、
自分自身と再会する。

未来の私へ

この記録帖は、未来の私への手紙でもある。
迷ったとき、立ち止まったとき、
一輪の花と、そこに添えた言葉が、
そっと背中を押してくれるかもしれない。


あとがき
華道は、花を生けるだけでなく、
心を見つめ、季節とともに歩む道。
記録することで、その道のりは、
より深く、より豊かに彩られていきます。


 

 

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