無愛想の美学  白洲次郎と正子が住まった『武相荘』



無愛想の美学──白洲次郎と正子が住まった「武相荘」

東京・町田の静かな里山に、ひっそりと佇む茅葺の家がある。
その名は「武相荘(ぶあいそう)」。

「武蔵」と「相模」の境にあるこの地に、白洲次郎が洒落心を込めて名付けた。
“無愛想”と掛けたその響きには、飾らず、媚びず、己の美意識に忠実に生きた夫妻の哲学が滲んでいる。

季節を住まう──庭と家の詩

武相荘の庭には、春の山吹、夏の青楓、秋の萩、冬の霜柱が、
まるで住人のように自然に息づいている。

手入れされすぎず、かといって放置されてもいない。
「ほったらかしのように手入れする」──そんな贅沢な矛盾が、この場所にはある。

茅葺の母屋は、もとは養蚕農家だった古民家。
白洲夫妻はこの家を、自らの手で少しずつ整え、
季節とともに暮らす“詩の器”へと変えていった。

道具と骨董──正子の眼差し

白洲正子は、骨董を「物の中に宿る時間」と語った。
彼女の選ぶ器や布、書や面には、
時代を超えてなお語りかけてくる静けさがある。

武相荘の室内には、そんな“語る道具たち”が、
まるで正子の随筆の一節のように、そっと置かれている。
それらは展示品ではなく、暮らしの延長として、
今もなおこの家の空気をつくっている。

無愛想というやさしさ

白洲次郎は、戦後の混乱期にあっても、
「従順ならざる唯一の日本人」とGHQに評された。
だがその強さの裏には、
“美しいものを守る”という静かなやさしさがあった。

正子もまた、能や文学、旅と骨董を通して、
日本の美を「暮らしの中の詩」として伝え続けた。
その姿勢は、今の私たちにも問いかけてくる。
──あなたの暮らしに、詩はありますか、と。


終わりに:WABISUKEの読者へ

武相荘は、ただの旧邸ではありません。
それは、季節と道具とことばが織りなす、ひとつの“詩の住処”。

WABISUKEが大切にしている「色名」「季語」「道具」「手紙」──
そのすべてが、この場所には静かに息づいています。

もし、日々の中で少しだけ立ち止まりたくなったら、
ぜひ一度、武相荘を訪れてみてください。
そこには、無愛想という名のやさしさが、
そっとあなたを迎えてくれるはずです。