STORIES

  • 茶杓と月の距離

    茶杓と月の距離 夜の茶室には、昼とは違う種類の静けさがある。 それは、眩しい静けさではなく、延々と眠っている静けさだ。 茶杓を手に取れる。細くて、軽くて、どこか当てにならない。でも、その頼りなさが、逆に安心感を与えてくれる。 茶杓には名前がある。「夢の浮橋」とか、「時雨の音」とか、そういう...
  • 茶道具の由来  静寂の器に宿る千年の記憶

    茶道具の由来──静寂の器に宿る千年の記憶 茶道具とは、単なる道具ではありません。 それは、時代を超えて受け継がれてきた美意識と精神性の結晶であり、 茶の湯という宇宙を形づくる「静寂の器」である。 茶道具の起源──仏具から始まった茶の器 茶道具の歴史は、奈良・平安時代にまで遡る。 ...
  • 土に祈り、橋を架ける  行基と民のための仏

     土に祈り、橋を架ける — 行基と民のための仏 「仏は、寺の中にだけ在るものではない。」そう語るように、行基(ぎょうき)は奈良時代の空を見上げながら、田畑を歩き、橋を架け、池を掘り、民の暮らしに仏の心を宿しました。 寺を出て、民の声を聴く 当時の仏教は、国家の守りとして寺院に閉じ込められてい...
  • 海を越えたまなざし  鑑真と、日本に根づいた光

      海を越えたまなざし — 鑑真と、日本に根づいた光 「わたしは、ただ、渡りたい。」 そう願ったひとりの唐の僧がいた。六度の渡航に挑み、五度の失敗を重ね、ついには両眼の光を失ってなお、彼は東の海を渡った。その名は、鑑真(がんじん)。奈良時代、天平の空に、静かにして確かな光をもたらした人物であ...
  • 龍郷柄に宿る記憶  WABISUKEの小さな布物語

      龍郷柄に宿る記憶──WABISUKEの小さな布物語 苔むす森の静けさの中に、ひとつの小さな布がそっと置かれている。黒、白、赤の幾何学模様が、自然の緑に映えて浮かび上がる。それはWABISUKEが手がけた、龍郷柄の小銭入れ。けれどその用途は小銭にとどまらず、薬入れにも、アクセサリー入れにも...
  • 秋田犬と暮らすポーチ  忠犬の記憶を、手のひらに

      秋田犬と暮らすポーチ──忠犬の記憶を、手のひらに 森の中の苔むす小道に、ぽつんと置かれた小さながま口ポーチ。黒地に映えるのは、くるんとした尻尾、つぶらな瞳、そしてどこか誇らしげな表情の秋田犬たち。WABISUKEが描いたオリジナルの秋田犬柄が、帆布に染められて、がま口ポーチという形になっ...
  • 色暦 10月29日の色  木蘭色 (もくらんいろ)

     色暦|10月29日の色:木蘭色(もくらんいろ) 木蘭の花のような、やわらかな黄茶──「木蘭色(もくらんいろ)」は、中国渡来の木蘭(モクレン)の樹皮を染料としたことに由来する、わずかに赤みを帯びた黄褐色。香色や黄橡(きつるばみ)にも近い、品のある薄茶系統の色です。  色の特徴 • 読み方:...
  • 静けさの中の宇宙  茶の湯の所作に宿る美

      静けさの中の宇宙──茶の湯の所作に宿る美 「すっ…」「ことん」「ふわり」畳に足袋が触れる音。茶杓が茶碗に置かれる音。湯気が立ちのぼる気配。それらはすべて、茶の湯の所作が奏でる無言の詩である。 一歩、茶室へ──畳の音が誘う世界 茶室の入り口に立つと、まず空気が変わる。外界の喧騒は、にじり口...
  • 色暦 10月28日の色  薄香 (うすこう)

     色暦|10月28日の色:薄香(うすこう) 香の煙のように、ふわりと漂う淡い黄茶──「薄香(うすこう)」は、香木の丁子(ちょうじ)や木蘭などを煮出して染めた布に、ほのかに残る香りから名づけられた色。平安時代の貴族たちが好んだ、品のある柔らかな色合いです 。  色の特徴 • 読み方:うすこう...
  • 午後三時の抹茶と、世界の静かな裂け目について

      午後三時の抹茶と、世界の静かな裂け目について   午後三時、僕は茶室にいた。正確に言えば、茶室のような場所にいた。畳の匂いがして、障子から差し込む光がやけに柔らかくて、そこには時間の流れが、少しだけ違う速度で進んでいるような気がした。   茶の湯というのは、奇妙な儀式だ。湯を沸かして、茶...
  • WABISUKE よくあるご質問 

    WABISUKE よくあるご質問 1. 商品について Q:WABISUKEの商品はどこで作られていますか?A:すべての商品は、日本国内の職人や工房と連携し、素材の記憶と贈る哲学を大切にしながら製作しています。布や色には、季節や土地の物語が宿っています。 Q:布や色には意味がありますか? A ...
  • 一丈四方の宇宙  『方丈記』が語る、無常と暮らしのかたち

     一丈四方の宇宙 — 『方丈記』が語る、無常と暮らしのかたち 「ゆく河の流れは絶えずして、先に水にはあらず。」この一文に触れたとき、私たちは何を思っているのだろうか。それは、ただの古典文学の許しではない。時を越えて、今を生きる私たちの心に触れる、静かな問いかけである。 『方丈記』は、鎌倉時...