龍郷柄に宿る記憶  WABISUKEの小さな布物語

 

龍郷柄に宿る記憶──WABISUKEの小さな布物語

苔むす森の静けさの中に、ひとつの小さな布がそっと置かれている。
黒、白、赤の幾何学模様が、自然の緑に映えて浮かび上がる。
それはWABISUKEが手がけた、龍郷柄の小銭入れ。けれどその用途は小銭にとどまらず、薬入れにも、アクセサリー入れにも、あるいは旅先で拾った思い出のかけらをそっとしまう場所にもなる。

この布には、記憶が染み込んでいる。
それは南の島々に吹く風の記憶であり、職人の手の温もりであり、そしてWABISUKEが現代に紡ぎ直した、文化の再解釈でもある。


龍郷柄とは──奄美の風土が生んだ意匠

龍郷柄(たつごうがら)は、鹿児島県・奄美大島に伝わる伝統織物「大島紬(おおしまつむぎ)」の代表的な柄のひとつ。
その名は、奄美大島の龍郷町に由来し、古くからこの地で織られてきた文様である。

特徴的なのは、菱形の中に花や葉を思わせるモチーフが繰り返される幾何学的な構成。
一見するとモダンな印象を受けるが、その根底には自然への敬意と、島の風土に根ざした美意識が息づいている。
龍郷柄は、奄美の自然──海、山、風、そしてそこに生きる人々の暮らし──を抽象化したものとも言われている。

大島紬は、泥染めと絣(かすり)技法によって織り上げられる精緻な織物。
その中でも龍郷柄は、力強さと繊細さを併せ持ち、見る者の心に深く残る意匠として、長く愛されてきた。


WABISUKEによる再解釈──帆布に宿る龍郷の魂

WABISUKEが手がけるこの小銭入れは、伝統的な龍郷柄を現代の感性でアレンジしたオリジナルデザイン。
素材には、丈夫で風合いのある帆布(キャンバス地)を採用。
絹ではなく帆布に染めることで、日常使いに適した耐久性と、カジュアルな親しみやすさを実現している。

しかし、そこに込められた精神は、まぎれもなく龍郷柄のそれだ。
繰り返される文様の中に、島の記憶が息づいている。
色彩は黒、白、赤──それぞれが意味を持つ。
黒は泥染めの深み、白は風の清らかさ、赤は島の太陽と情熱。

この柄は、ただの模様ではない。
それは、文化の記憶を織り込んだ詩であり、布に刻まれた物語なのだ。


小さな布に宿る、大きな物語

この小銭入れは、手のひらに収まるほどのサイズ。
けれど、その中に収められるのは、硬貨だけではない。

たとえば、旅先で拾った小石や貝殻。
祖母から譲り受けた指輪。
日々の薬をそっとしまうことで、身体をいたわる習慣。

使い方は人それぞれ。
けれど、どんな使い方をしても、この布は持ち主の記憶をそっと包み込む。
それは、布が持つ力──記憶を守り、物語を紡ぐ力──なのだ。


文化を継ぐということ──WABISUKEの哲学

WABISUKEは、ただ商品を作るブランドではない。
それは、文化を継ぎ、再解釈し、現代に生きる人々の暮らしに寄り添う「物語の継ぎ手」だ。

龍郷柄を帆布に染めるという選択は、伝統をそのまま再現するのではなく、現代の生活に合った形で再構築するという意思の表れ。
それは、文化を「保存」するのではなく、「生かす」こと。
そして、布というメディアを通して、人と人、人と土地、人と記憶をつなぐこと。

この小銭入れは、その哲学の結晶だ。
小さな布の中に、奄美の風、職人の手、そしてWABISUKEの想いが宿っている。


最後に──あなたの物語を包む布

この小銭入れを手に取ったとき、あなたは何をしまうだろうか。
硬貨、薬、アクセサリー──それらは、日々の暮らしの断片。
けれど、その断片が集まることで、ひとつの物語が生まれる。

龍郷柄は、繰り返される文様の中に、永遠を見つめる。
そしてWABISUKEは、その永遠を、あなたの手のひらに届ける。

小さな布に、大きな記憶を。
あなたの物語を、そっと包むために。

 

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