『非水の眼、時代を染める』 杉浦非水とモダンデザインの詩学


「非水の眼、時代を染める」—杉浦非水とモダンデザインの詩学

銀座の街角に、ふと目を留めたポスターがある。曲線がやわらかく、色彩は控えめながらも凛としていて、どこか懐かしい。そこに宿るのは、杉浦非水の美意識だ。

明治9年、愛媛県松山に生まれた非水は、東京美術学校で日本画を学びながら、西洋美術にも深く触れた。アール・ヌーヴォーやウィーン分離派の影響を受けつつ、日本の伝統美を見失うことなく、彼は「図案家」としての道を切り拓いた。

三越百貨店の専属デザイナーとして活躍した彼の作品は、「三越の非水か、非水の三越か」と称されるほど、ブランドの顔となった。ポスター、PR誌、商品パッケージに至るまで、彼の手によって「日常の中の芸術」が息づいた。

非水のデザインには、写実と装飾、平面と奥行き、和と洋が絶妙に溶け合っている。たとえば、東京地下鉄開業ポスターでは、遠近法を駆使したダイナミックな構図が、都市の躍動を描き出す。一方で「非水百花譜」では、桜や牡丹、木蓮といった花々が繊細に描かれ、静かな詩情が漂う。

彼の思想は「自然に学ぶ」ことに根ざしている。徹底した観察と写生を通じて、彼は色と形に命を吹き込んだ。それは、単なる装飾ではなく、見る者の心に語りかける「視覚の言葉」だった。

現代においても、非水の作品は色褪せない。むしろ、情報が氾濫する今だからこそ、彼の「明快さと親しみやすさ」「伝統の中の新しさ」が、私たちの感性を整えてくれる。

杉浦非水は、時代を染めたデザイナーであり、詩人だった。彼の作品に触れるとき、私たちは視覚を通じて、静かに詩を読むのだ。