STORIES

  • 茶杓と月の距離

    茶杓と月の距離 夜の茶室には、昼とは違う種類の静けさがある。 それは、眩しい静けさではなく、延々と眠っている静けさだ。 茶杓を手に取れる。細くて、軽くて、どこか当てにならない。でも、その頼りなさが、逆に安心感を与えてくれる。 茶杓には名前がある。「夢の浮橋」とか、「時雨の音」とか、そういう...
  • 静けさの中の宇宙  茶の湯の所作に宿る美

      静けさの中の宇宙──茶の湯の所作に宿る美 「すっ…」「ことん」「ふわり」畳に足袋が触れる音。茶杓が茶碗に置かれる音。湯気が立ちのぼる気配。それらはすべて、茶の湯の所作が奏でる無言の詩である。 一歩、茶室へ──畳の音が誘う世界 茶室の入り口に立つと、まず空気が変わる。外界の喧騒は、にじり口...
  • 午後三時の抹茶と、世界の静かな裂け目について

      午後三時の抹茶と、世界の静かな裂け目について   午後三時、僕は茶室にいた。正確に言えば、茶室のような場所にいた。畳の匂いがして、障子から差し込む光がやけに柔らかくて、そこには時間の流れが、少しだけ違う速度で進んでいるような気がした。   茶の湯というのは、奇妙な儀式だ。湯を沸かして、茶...
  • 清寂の緑:抹茶が語る、時間と心の物語

      清寂の緑:抹茶が語る、時間と心の物語 静けさの中に、ふと立ちのぼる湯気。湯呑みに注がれた一杯の抹茶が、私たちの心をそっと包み込む。忙しない日常のなかで、ほんのひととき立ち止まり、深く息を吸い、抹茶の香りに身を委ねる。その瞬間、時間はゆるやかに流れ、心は静寂のなかへと還っていく。 抹茶と...