縞の記憶、がま口に宿る   WABISUKEのシマウマ柄ポーチと江戸からの旅

 

縞の記憶、がま口に宿る──WABISUKEのシマウマ柄ポーチと江戸からの旅

ある日、掌に収まる小さながま口を開いたとき、そこから吹き抜けたのは、遠いアフリカの風だった。
橙色の布地に白と黒の縞をまとったシマウマたちが、まるで夕暮れの草原を駆けるように、静かに、しかし確かに躍動している。

WABISUKEの「シマウマ柄がま口ポーチ」は、単なる動物柄の雑貨ではない。
それは、江戸時代の驚きと憧れ、和の意匠と異国の生命、そして現代の暮らしに寄り添う詩的実用性が交差する、ひとつの「文化の器」だ。


【1675年──シマウマが日本にやってきた日】

時は延宝3年(1675年)。
江戸幕府のもとに、異国からの珍しい献上品が届けられた。送り主は、アルメニア人商人ホジャ・ムラード。彼は「エチオピア諸王の大使」として、2頭のシマウマを日本の天皇に献上したとされている。

この出来事は、江戸幕府の公式記録『徳川実紀』や、オランダ東インド会社の文書にも記されており、当時の日本がいかに異国の文化や自然に対して知的好奇心を抱いていたかを物語っている。

当時の人々は、シマウマを「縞馬」や「胡馬」と呼び、その姿を絵図や物語に描き留めた。見たことのない動物に対する驚きと畏敬、そしてそれを自らの言語や美意識に取り込もうとする柔軟さ──それは、江戸文化の懐の深さを象徴している。


【縞模様の美学──和と洋のリズムの交差点】

日本人にとって「縞」は、単なる模様ではない。
江戸時代、縞柄は町人文化の中で粋の象徴とされ、着物や帯、風呂敷などに多用された。縞には「間(ま)」があり、「静」と「動」のリズムがある。墨絵の濃淡、障子の影、竹林の揺れ──日本の美意識は、線と余白の中に詩を見出してきた。

そこに、アフリカの草原を駆けるシマウマの縞が重なる。
白と黒のコントラストは、まるで水墨画のように抽象的で、どこか懐かしい。WABISUKEのポーチに描かれたシマウマたちは、リアルな動物というよりも、意匠としての命を宿している。橙色の背景に浮かび上がるその姿は、日本の伝統色「黄丹(おうに)」や「柿渋」を思わせ、和の空気に自然と溶け込む。

これは、異国の生命が和の器に宿った瞬間だ。


【がま口という記憶のかたち】

がま口は、明治時代に西洋から伝わった口金技術が、日本の生活文化に根づいたものだ。
昭和の時代には、財布や小物入れとして広く使われ、カチリと閉じる音は、どこか懐かしい記憶を呼び起こす。祖母の引き出し、駄菓子屋の小銭入れ、初めてのお年玉──がま口には、世代を超えた記憶が詰まっている。

WABISUKEのがま口ポーチは、その懐かしさを現代に再解釈したもの。
形状は伝統的でありながら、柄はモダンで遊び心に満ちている。まるで、京都の町家に飾られたアール・デコのポスターのように、時代と文化を超えて調和する美しさがある。


【異国と郷愁──シマウマが語るもの】

シマウマは、群れで生きる動物だ。
一頭一頭、縞模様が異なり、それが個体識別の鍵となる。これは、日本の「個の中の調和」という思想に通じる。個性を尊重しながらも、全体として美しくまとまる──それは、和の美学そのものだ。

また、シマウマは「野生の象徴」として、自由と躍動を体現する存在でもある。
その姿が、がま口という「閉じる器」に描かれていることは、ある種の詩的な逆説だ。自由を象徴する動物が、日常の中で鍵や小銭を包み込む。そこには、「日常の中にこそ詩がある」というWABISUKEの哲学が息づいている。


【日々の中の詩──ポーチが紡ぐ物語】

このポーチに何を入れるかは、使い手次第だ。
鍵、リップ、飴玉、イヤホン、薬、指輪、あるいは小さな願いごと。けれど、このポーチが包み込むのは、物だけではなく、持ち主の「らしさ」そのもの。

バッグの中でそっと佇みながら、日々の営みに寄り添う。
忙しい朝、ふと手に取った瞬間に、シマウマたちが駆け出すような気配を感じる。
夕暮れの電車の中で、がま口を開けたとき、遠い国の風が頬を撫でるような錯覚に包まれる。


【WABISUKEの哲学──詩的実用性の美】

WABISUKEが目指すのは、単なる「使えるもの」ではなく、「使うことで物語が生まれるもの」。
このがま口ポーチは、まさにその哲学を体現している。異国の動物を和の意匠に落とし込み、懐かしさと新しさを同時に感じさせるデザインは、ブランドの詩的な世界観を見事に表現している。

そして何より、このポーチは「文化の交差点」としての役割を果たしている。
江戸の驚き、昭和の記憶、令和の暮らし──それらがひとつの布に縫い込まれているのだ。


【結び──掌の中の旅】

シマウマ柄のがま口ポーチは、掌の中の小さな旅。
それは、1675年の江戸から、昭和の記憶を経て、令和のあなたの暮らしへと続く旅路。
WABISUKEが紡ぐその布の世界には、文化の記憶と詩の息吹が宿っている。

日々の中に、ほんの少しの異国と郷愁を。
そして、あなた自身の物語を重ねてみませんか。